No.154 清水重利 |
|
『流す文化の日本人』
「この話は、水に流しましょう。」 日本人なら、一度は使ったことのあるフレーズだと思う。しかし、 なぜ「話」を水に流すのだろうか。燃やしてもよかっただろうし、 土に埋めてもよかっただろう。なぜ、「水に流す」と表現したの だろうか。一方、英語では、このような場合「bury」つまり 「埋める」を使うようだ。すなわち、bury one’s differences [意見の相違を水に流す。] のようになる。 このように、言葉の表現には、その国の特色が関わってくるよう である。日本人が「水に流す」と表現したのは、日本が水にゆかり 深かったからと推察する。たしかに日本は、水に恵まれている国だ といわれている。日本の年間降水量は約1,800ミリメートルである 一方、世界各国の平均は1,000ミリメートルである。単純にこの数字 を見るだけでも、我々日本人は水に恵まれた環境で生活していること がわかる。さらには、日本の現代生活に欠かすことのできない水洗 トイレの発達も水に恵まれている環境ならではのものだろう。 この豊富にある水で、日本人は「流す文化」を作り上げてきたよう だ。生活で汚れたものは川で洗い、災いを鎮める時、霊魂を供養 する時は、それらに関係する品々を川に流してきた。「流し雛」 や「精霊流し」、「燈籠流し」といった文化はそれである。 しかし、日本の狭く急峻な川の構造は、時として洪水を引き起こす。 洪水は、家を飲み込み、人の命をも奪う。日本人は、川に流されて、 自らの生活をまた人生をリセットさせられてきた。 この日本の地形と気象が生んだ「水に流す文化」は、「水に全てを 流し、新しい自分に生まれ変わるために全てを忘れる。」といった 日本人の前向きな気質に影響しているのではないだろうか。さらに、 「水に流す」ことは他人の罪も許す行為でもあり、そこには争いを 好まず、互いに譲りあうことでともに幸せな社会を築こうとする、 日本人の穏やかな性格があらわれているように思う。しかし、私も 含む、日本人は過去の代償も含め、あまりにも、きれいさっぱり 忘れやすい一面がある。日本が戦争で引き起こしたアジア諸国に 対するあやまちなどは、過ぎてしまった事であり、私は、それらを 早く水に流して欲しいと思ってしまう。しかし、多くのアジアの 人々の心の中には、水に流すことの出来ない怒りや悲しみ、そして 憎悪を日本に対して、日本人に対して抱き続けている人々がいる事 を忘れてはいけない。 日本の地形・気象がつくりだした豊富な水が影響して、日本人は 「流す文化」をつくりあげてきた。地形・気象がそこで暮す人々の 文化・気質を左右していると推察する。世界には様々な地形・気象 が存在し、それによって多様な文化・気質が形成されている。その すべてを尊重しあうことが、今後のグローバル社会にとって必要 不可欠だろう。
07/01/26 15:06
|
|